~嶋原空也~

 帰れるなんて予兆は全くなく、その日が訪れたのは、本当に突然だった。

 こちらの世界に来てしまってから、もう二年と二ヶ月。

 当たり前のようにただ時間だけを過ごしてきて、それが当たり前になっていた朝、目が覚めて大きな伸びをしようとした瞬間だった。

 何をしたわけではないのに、体がじんわり熱くなってきて、俺は一人慌てる。

 この現象は、いつもあちらの世界に戻る時だけに起こるもので、掌を上にかざすと、徐々に透明になっていく。

 嘘、帰れる?

 やっと、帰れる?

 見る見るうちに透けてゆく指先を見ながら、自分の体を触るも、空気を掻くだけ。

 帰りたい、この世界を出て行きたい。

 できることなら、もうこちらへは帰ってきたくないな。