中にいた研究員達とも、顔見知りになっており、こんにちは、と頭を下げる。
「大して新しい話はできないままで、申し訳ないんだけれど」
「いえ、大丈夫です。ここに来ると、落ち着くんです」
研究所に来ると、確かに嶋原君はこの世界に存在した、と強く思えるから。
「恵口さんは都市の大学へ進学するって言っていたね。自宅からは通えないんでしょ」
「はい、一人暮らしをする予定です」
「いよいよ、新しい一歩を踏み出すんだね」
博士は、どこか寂し気な笑顔で、飾ってある家族写真を見つめる。
「結局、僕は空也を卒業までに、戻らせることは出来なかった」
それがとても悔しい、と言った博士に、私はかける言葉なく、結局研究所を出てきてしまった。
そう、私は新しい世界へ、足を踏み入れようとしている。
空は青く、雨が降る気配はない。
楽しかった、苦しかった高校の思い出は、いずれ過去になる。