しかし、例え再びあの世界に戻りたくても、戻る時はこの記憶は一緒に持っていくことができない。
忘れたくないのに、すぐに記憶はリセットされてしまう。
「私ね、あっちの世界で、好きな人は作らないようにしてるんだ」
「へぇ」
「自分と同じ雨人のことを、好きになれたらと思ってる」
それだと、離れ離れにならず悲しくないでしょ? と言われ、俺は口を瞑る。
「だから、嶋原君もまぁ候補の一人だから」
「ちょっ」
「いいでしょ、戻っても記憶ないんだし。ちなみに、第一候補なんてねー……」
毛利はサラッと笑いかけてくれものの、俺はパッと目を逸らした。
確かに、雨人と特別な関係を築ければ、心の拠り所にもなるかもしれない。
もしかしたら俺は、このまま毛利とそういう関係になるのだろうか。
生暖かい空気が漂う室内で、横目で確認すると、毛利は大人びた笑みを浮かべていた。