ラルフ様のお屋敷に着いて、侍女さんお二人にご挨拶しました。
お二人ともとてもお優しい方で、大歓迎していただきました。
お屋敷は一人暮らしなので、伯爵家のタウンハウスの中で一番小さなものと聞いてたのに……我が家より少し小さい程度で、我が家よりも格段に綺麗でした。
「イレーナ様、さぁさぁ、こちらへ来てくださいませ!」
「イレーナ様、さぁさぁ、先ずは湯浴みをしましょう!」
「いてっ。をい!」
ラルフ様にずっと握りしめられていた手は、侍女のセルカさんの手刀によって、解放されました。
「なんでございますか? 湯浴みにまでついて来る気でございますか? 坊ちゃま」
「なんでございますか? 『愛しいから、一時も離れたくない』とかでございますか?」
――――坊ちゃま。
久しぶりに聞きました。坊ちゃま。ラルフ坊ちゃま。
ふふっ、何だか可愛らしい響きです。
ちらりとラルフ様のお顔を見ると、ムッとした表情になられました。少し笑ってしまったことで、怒らせてしまったのでしょうか?
「「あらあらあらあら」」
「声を揃えるな! まったく。さっさと湯浴みに連れて行ってやれ」
「……坊ちゃま、まだお昼前ですわよ?」
「……坊ちゃま、少しは辛抱してください?」
「っ! そういう意味ではないっ!」
どういう意味なのでしょうか?
きょとんとしている間に、侍女のメリーさんにそっと手を引かれ、湯殿に連れて行かれました。
「イレーナ様、ご安心くださいね。魔女様より仔細はお伺いしておりますから」
「坊ちゃまは、あんなではありますが、誠実さだけは保証いたしますわ」
何だかラルフ様の扱いが雑な気がしますが、幼い頃からの侍女ということですので、親族に近い感じの扱いになるのは、なんとなくわかります。
私には専属の侍女がいませんでしたが、父と執事や母と母の侍女がとても仲がよく、羨ましいと何度か思った覚えがあります。
実家を思い出して、少しだけしんみりとしてしまいました。
「さぁさぁ、ドレスに着替えましょうね」
「王城から沢山頂いておりますよ」
今回の謝罪ということで、ドレスを二十着、靴を十着、装飾品類までも頂いているそうです。
湯浴みを終えて、恐縮しながらも今まで着たことのない上質な布地のドレスを身に纏いました。
何故かぴったりサイズです。お腹がちょっと窮屈なのは気の所為にしておきます。心の安寧のために。
「可愛……んんっ! これからのことを話し合おうか」
「はい」
リビングルームに向かうと、ラルフ様からソファに座るようにと言われ、素直に座りました。
…………何故か、ラルフ様が隙間ゼロで左隣に座られています。が、これもアレなのでしょうから、気にしないこととします。
ラルフ様の一日の流れをお伺いすると、キョトンとしたお顔をされてしまいました。
「まだ、そんなことを。この滑らかな手が荒れてしまう」
指を絡め、撫で撫で、揉み揉み。
私の左手はラルフ様に触られまくっています。
また手汗が心配になってきました。大丈夫でしょうか?
「舐めたいくらい――――っ、あぁぁぁ! なんでもないっ!」
「あ、はい。あの、なんか、申し訳ございません」
ソファでうずくまり頭を抱えるラルフ様に謝りましたら、こプルプルと頭を横に振られました。
何だか可愛らしくて。
ついつい、シルバーブロンドの髪を梳きつつ頭を撫でてしまいました。