しんとした空気の中、騎士様にじっと睨み付けられているものの、空色の瞳があまりにも美しくて目を逸らせませんでした。

「……二人して、何を見つめ合ってるのよ？」
「べ、別に見つめてなどっ！」
「し、失礼いたしました」
「ふぅん？　へぇぇ？」

　魔女様に指摘されてハッとしました。格上の方を無作法に見つめ続けるなど。ちゃんと伝えなければならないことがあるのに……。
　注意を受けるのかと思っていましたら、魔女様は相変わらずのニヤニヤ顔でした。

「あの、騎士様…………私、本当に王女殿下の暗殺など企(くわだ)ててなどいないんです」
「っ！」

　どうにか信じてもらいたい。
　そう思ってお伝えしましたら、騎士様が更に眉間の皺を深くし、床に膝を付いて私の左腕をそっと撫でてくださいました。

「騎士様……申し訳ございません」
「なっ⁉　なぜ貴女が謝――――」

　騎士様が何かを言おうとされた瞬間に、バタンと勢い良く部屋の扉が開きました。

「副隊長！」
「っ！　ひっ…………いやっ、やめて……やめてぇぇ！」

　部屋に飛び込んでこられた知らない騎士様を見たその瞬間、あの恐ろしい『尋問』を思い出してしまい、全身に震えが来て、パニックになってしまいました。涙がぼたぼたと零れて止まりません。

「イレーナちゃん！　大丈夫、大丈夫よ！　ゆっくり深呼吸しなさい」
「落ち着くんだ。貴女を害しようとする者などいない」

　魔女様と騎士様が優しく背中を撫でてくださって少し落ち着けました。

「……はい。申し訳ございません」
「だから！　貴女は謝らなくていい！」
「っ……」

　ぽたりぽたりと、また涙が落ちて来てしまいます。

「ふ、副隊長、あの？」
「出ていけ」
「申し訳ございませんでした！」

　知らない騎士様が大きな声で謝られたあと、部屋から出ていかれました。
　シルバーブロンドの騎士様が、ゆっくりとした動作で私の隣に座り、両手を包み込んでこられました。
　彼の手は大きくて温かくて、何だか安心出来ます。
　
「イレーナ嬢、本当にすまないことをした」
「騎士様……」
「我々騎士団は、どんな償いでも貴女にすると誓う」

　――――騎士団は。

　何故か、その言葉が喉の奥に引っ掛かる、そんな気がしました。

「あら！　じゃあ、一生を掛けて償いなさい！」
「「え？」」

　急に魔女様が迫力のある笑顔で、騎士様のお顔に手のひらをかざされました。
　何か魔法を使われるのでしょうか？

「騎士ラルフ、お前は一生を掛けてイレーナちゃんを愛し守り続けなければならない。これは『呪い』である」
「「え？」」

　――――の、呪いぃぃぃ！？



　◇◇◇◇◇



「ねえ、なんで呪いなんて掛けたんですの？」
「んー？　まぁ『のろい』って言ったけど『まじない』かしら？」
「まじない、ですの？」
「そ。『自分の本当の気持ちが口と行動に出てしまう』っていう、まじない。あのラルフが(・・・・・・)よ？　女の子に対してあんなに優しい目を向けたことなんてあった？」
「…………ありませんわね」
「でしょ？　それに、イレーナちゃんもラルフの事は平気のようだし。あの子、たぶん異性全般が怖くなっているんだと思うのよ。お城から出るときもそうだったじゃない？　自分を絶対に守ってくれる騎士が側にいることで安心して過ごしてくれれば良いのだけど」
「そうですわね。……で、本当のところは？」
「…………なんか、面白いことになりそうだったんだもの！」
「っ！　その気持ち、わかりますわっ！」