――――なんでこんなことに。

 真っ暗な中で、ぼんやりと揺れる灯り。
 ベッドに寝転がり、蝋燭を見つめながら、今日の出来事を思い出していました。

 大勢の騎士様に囲まれ、あれよあれよという間に後ろ手で縛られ、連行されたのは王城の牢屋。
 下っ端ではあるものの、準男爵家の令嬢ということで貴族専用の牢屋に入れてもらえました。

 貴族専用の牢屋、私のベッドよりふかふかなのですが?
 出された食事も、ありえないほどに豪勢なのですが?

「食事だ」
「わぁ! ありがとう存じます。美味しそうです」

 お腹いっぱい食べて、ふかふかベッドでうっつらうっつら。
 夜らしき時間になると、また騎士様が食事を持って来てくださいます。

「……食事だ」
「まぁ! こんなに豪華で、果物まで⁉ 良いのですか?」
「最低限の食事だが?」
「あらぁ?」

 どうやら我が家は、普通の貴族の最低限を下回っているようです。

「…………貴殿は、慌てないし、怖がらないのだな?」
 
 いつも食事を持ってきてくださる、シルバーブロンドの騎士様をじっくりと見つめてみました。
 透き通った空のように青い瞳。
 ピンと伸びた背筋。
 歳は私より少し上な気がします。

「あまりにも快適ですし、騎士様もお優しいので、気にしてませんでした!」

 にへらっと笑って、恥ずかしさを誤魔化していましたら、騎士様がふっと柔らかく笑ったあと、頭を撫でてくださいました。

「あとでメイドをよこす。整えてもらいなさい」
「ありがとう存じます!」

 騎士様、優しすぎます。
 出来ればあとどのくらい拘束が続くのかは知りたいのと、右足首が尋常じゃなく腫れているのですが、数少ない会話の中で色々と事情がありそうな雰囲気を出されているので、ぐっと我慢です。



 四日ほど牢屋生活を満喫しつつ、シルバーブロンドの騎士様と一日数回だけの他愛無いやり取りをして過ごしていました。
 お昼を頂いて暫く経ったころ、部屋のドアが勢いよく開いて、鼻に大きなガーゼを付けたどことなく見覚えのある騎士様がやって来ました。

「取り調べを始める!」
「え、キャッ」

 髪の毛をグイッと掴まれ、引っ張り上げられました。
 せっかくメイドさんにセットしてもらったのに。

 引き摺られるようにして連れて行かれたのは、尋問部屋と書いてあるのに、拷問に使えそうな道具たちが壁に並べられていて、床にはイスのみが置いてある妙に鉄臭い部屋でした。 

「あの男はお前が指示したと吐いたぞ」
「あの男? 指示した?」

 鼻ガーゼの騎士様の言っている意味が分からなくて、オウム返しのように呟きましたら、左頬や頭や右肩に激痛が走りました。
 ぐわんぐわんと目が回り、キィーンと耳鳴りがします。

「お前が、殿下の暗殺を指示したんだろう?」

 遠くで声が聞こえます。
 左耳が詰まったような感じがしてよく聞こえません。
 そこでようやく、鼻ガーゼの騎士様に頬を叩かれ、体が床に倒れ込んでいるのだと気が付きました。

「あ……ぅ…………」
「何のために殿下を狙った⁉ 吐け!」

 床に投げ出していた右手を踏まれた瞬間、メギリという変な音が聞こえました。
 声にならない声で悲鳴を上げていると、今度はお腹を蹴られて、息が止まりかけました。

 ――――痛い。

 痛いです。顔も頭も、手も肩もお腹も、全身が痛いです。
 涙がどんどんと溢れてきます。

「泣けばいいと思うなよ!」
「いぁぁぁぁ!」

 髪の毛を鷲掴みにして頭を持ち上げられました。

「お前の鼻も私と同じようにしてや――――」
「止めろっ!」

 意識が途切れる直前に視界に入ってきたのは、シルバーブロンドで優しそうな青い瞳の騎士様でした。