はぁはぁと必死で息をしていましたら、私の上にのしかかっていたラルフ様がギラリと目を光らせ、口元にのみニコリと笑みを乗せられました。
「で、返事は?」
――――こっ、ここまでしておいて⁉
口付けを受け入れたこと、嫌がっていない素振り、真っ赤であろう私の顔。どれをとっても答えは解っていらっしゃるはずなのにっ。
「さあ? 解からないなぁ」
途轍もなく嘘くさい笑顔を貼り付けられました。
しかも、早く答えなさいと急かして来ます。
「っ……あ…………あの、私も好きです」
そう言った瞬間、ラルフ様は破顔され、また柔らかくて甘いキスを下さいました。
ソファから体を起こしてもらっている際に、耳を真っ赤にされながら「よかった」と呟かれたのがとても可愛らしくて、心臓が爆発するかと思いました。
「あらぁ?」
「まぁぁ?」
サロンをでましたら、侍女のお二人が首を傾げながら私達二人を見つめてきました。ちょっとだけ後ろめたい気分です。
ラルフ様がこれからも私はここに住むと宣言されたのですが、いつの間にそんなことになったのでしょうか?
「んなっ⁉」
「あらあら」
「まぁまぁ」
「っ! と、取り敢えず、私は登城するので、君は必ずっ、この屋敷にいなさい! ここは安全なのだから!」
妙に声が裏返っていらっしゃいますが、お城に何か急用でしょうか? あ、そもそも今日はお仕事でしたね。私のわがままのせいで、ラルフ様と騎士団の方々にご迷惑を…………大変申し訳ないです。
「昨日の内に半日休暇の申請は出していたし、休暇は溜まっていたので消費しなければならなかった。君にはなんら関係のない問題だ」
「はい……」
ラルフ様がシルバーブロンドの髪を靡かせながら、くるりと回転して玄関に向かわれたのですが、さらにくるりと回転し直して、こちらに向かって来られました。
「行ってくる」
触れるだけの、優しい『いってきます』のキス。
幼い頃、両親が玄関でしているのを羨ましく思っていました。私にもやっとそういった相手が出来たのですね。
「はい、行ってらっしゃいませ、あなた」
「っ⁉ や、屋敷から、絶対に出ないようにっ!」
頭の中に出てきていた両親のやり取りのせいで、『あなた』という余計な単語まで口から零れてしまいました。
ラルフ様がまたもや耳を真っ赤にして、玄関から出ていかれました。
「ラルフ様……可愛いです」
ぽそりと呟いたつもりだったのですが、侍女のお二人に聞こえていたらしく、うんうんと頷かれてしまいました。