「私……傍にいてって、ムリ、言っちゃって」

 声が震える。

「ムリじゃないけど」

 唇がうまく動かない。

「えと、わかってる、よ。圭ちゃんの気持ちはすごく嬉しいから。だって、この二か月、すごく楽しかった。今日だって、スタッフのおばさんに輝いてるって言われた。楽しそうだって」
「俺もだよ。俺も、先輩たちに、からかわれてた」
「…………」

 布団を握る紗希の手に、圭司のそれがそっと重なった。

「どんなに理由つけて言い訳したって、自分は偽れない。この二か月で、よくわかった。お前を傷つけたらダメだって思って、自制してもしても、ダメだった。紗希、俺、やっぱお前が好きだよ」
「…………」

 ぶわっと涙がこみあげてきて、溢れた。ぼろぼろと頬を伝って流れ落ちていく。

「けい、ちゃん」

 今度は紗希の頬に手が触れた。顎を掌が覆い、親指が優しく撫でる。

「圭ちゃん……」

「慌てなんでえぇ。ゆっくり進もう。お前が俺のもとからいなくなったんは、たったの四年とちょっとやないか。でもその間に、お前はいっぱい経験して、いっぱい傷ついた。俺はそんなお前ごと好きで、一緒にいたいねん。だからその四年とちょっとを大事にして、しっかり癒やさんと、あとで歪みになりかねんやろ」

「圭ちゃん」

「おっと、大阪弁に戻ってるってダメ出しはすんなよ。真面目な話の時は、さすがにちょっとムリやから」
「…………」

「紗希、力抜け。俺の前ではリキまんでえぇから」
「うん」

 紗希は微笑んでから、そっと目を伏せた。

 唇に感じる優しい想い。

 一度離れ、再び重なると、今度は強く、深くなった。

 角度を変えつつ何度も求め、舌を絡め合い、想いを込める。

 ゆっくり顔が離れると、紗希は太ももに当たっている硬いモノに気がついた。

「圭ちゃん、もう復活してる」
「それは、まぁ……」

 圭司の声に紗希がニコリと笑う。

「いつから好きでいてくれたの?」
「いつから、って……」
「ねぇ」
「そんなん覚えてへんわ。気づいたら好きやった」

 圭司が紗希をぐっと抱きしめた。紗希は力を抜き、されるがままに身を預け、そして目を閉じた。

(好き、好き、圭ちゃん。私も、ずっと好きだったんだもん。だから圭ちゃんが女の子と歩いてるのを見た時、すごく腹が立った。あの事件がなかったら、きっとすっごく、すっごく責めてたと思うもん)