大きく開かれた左眼の見詰める先には、伊織、いや敏信の哀し気な瞳があった。やはりこの若者と妹 秋姫は月葉の(ゆかり)の者なのだ。悠仁采は失われた右眼の在るべき場所が(うず)いた気がして、思わず眼帯を押さえた。

「命を救われたとは皮肉な物言い。依然幼名を好むのもその所為か? 敏信の一字は織田家より授けられたのであろう?」

 右半身が焼けるような熱さを感じて、悠仁采はおもむろに息を荒くさせながらも、その左眼を伊織から離さなかった。

「じじ殿は全てお見通しのようだ……いかにも、私は右京殿と同じく家を潰された者。しかし同じく織田によって生かされているのですよ……我が祖母 月は和睦の際、織田家に嫁ぎ一男を儲けました。ですが既に正妻の(もと)、嫡男は存在しておりました故、月の男子は信秀様の許しを得て、水沢家再建の火種となりました。……もちろん織田家直属の一族として──そしてその次の世が私なのです」

 ──月葉はやはり子を儲けていた……あの一件の二ヶ月後、病で逝ったと告げられたあの知らせは何だったのか? 我が配下の同情による偽りか、それとも織田への復讐の念を断つための如何様(いかさま)……?