「私は……このままこの国にいていいんでしょうか」

思わず口をついて出た。私を守るために博已さんは怪我をしたし、多くの人が動いてくれた。国を揺るがすような出来事に近づいてしまい、この先も私の安全を守るために多くの人に迷惑がかかるなら、イタリアに居続けたいというのは我儘になるかもしれない。

「おそらくだが、ヴァローリはこれ以上菊乃を追わない。俺と菊乃のもたらした情報は些細なものだ。実際、きみをさらおうとした連中は、自分たちの失敗の補填をするために行動をしたところが大きい。あの犯罪グループは今回の件で壊滅だろう」

落とし前をつけるために私をさらおうとしたということだろうか。そんなことで命を奪われそうになったとは、ぞっとする。

「ヴァローリが恨むなら自分の悪だくみを暴いた国防省や現政権の議員たちだろう。ヴァローリを疑った彼らは各国の諜報機関に情報を募っていたんだから。今後は菊乃に過剰に護衛をつける理由もなくなり、きみは自由になれる」
「本当に……?」
「ああ。なにより、俺がきみにそばにいてほしい。きみを安全な土地へと思いながら、離れたくないと願っている」

言葉を切って、博已さんは私を見つめた。

「でも、恐ろしい目に遭ったのは菊乃だ。菊乃がやはりもう日本に帰りたいというなら、返してやりたい。菊乃が決めていいんだ」
「私は博已さんといますよ」

間髪入れずに答えていた。だって、もう私たちは夫婦なのだ。許されるなら離れたくなどない。