目が覚めると室内には常夜灯がともっていた。眠っている場所が自宅でも、コンサートホールの控室でもないというのはすぐに気づいた。
ここはどこだろう。
寝たままの姿勢で首をめぐらせると、横のベッドで博已さんが休んでいるのが見えた。博已さんがいる。そのことにホッとすると、コンサート直後の事件が思い起こされた。
大変な目に遭うところだった。博已さんたちがすぐに駆けつけてくれなかったら、私の命はなかったかもしれない。

「ん」

私の身じろぎの音で博已さんの瞼が震え、ゆっくりと目が開く。

「菊乃、起きていたのか?」
「博已さん、私、眠ってしまったみたいで」
「ショックな出来事の後だ。無理もない」

博已さんが身体を起こした。

「ここは日本大使館内のゲストルームだ。もう安全だ」

そこまで聞いて、私はようやく自分がいるのが日本大使館なのだと気づいた。ここはイタリアにある日本。確かに一番安全なところだろう。

「あの後、どうなりましたか?」
「ヴァローリは早々に計画が失敗したのを悟ったようだよ。引き留めたがパーティーから引き揚げていった。しかし、彼と繋がりのある犯罪グループがきみをさらおうとしていた件は日本に報告し、イタリア政府に情報が行っている。おそらくヴァローリは近日中に召喚されるだろうな」
「失脚するんでしょうか。逮捕とか」
「マフィアと通じていたというなら醜聞で失脚。武器を蓄え、犯罪グループと繋がりテロをもくろんでいたとなれば国家反逆罪。どちらにしろ、政治家としての未来は終わりだ。きみは念のため、一週間ほど大使館内で寝泊まりしてもらう」