「大変、すぐに手当てを……!」
「たいした傷じゃない。それより、怖い想いをさせてすまなかった。一瞬でも、きみをひとりにすべきじゃなかった」

うつむいて唇をかみしめる彼の手をワンピースについていたサッシュベルトで押さえて止血した。たった今まで感じていた恐怖より、博已さんが怪我をしてしまったことの方が怖い。
ぎゅうぎゅうと手で圧迫していると、博已さんが私の手に自身のもう片方の手を添えた。

「ありがとう。きみが無事で本当によかった」
「本当にごめんなさい。油断しました。スマホを持つ暇もなくて。探してくれてありがとう」

泣きそうになるのをぐっとこらえる。安堵と博已さんの怪我の心配で感情がめちゃくちゃだ。
そこへ堂島さんが駆け寄ってくる。

「菊乃さん、大丈夫か? 加賀谷はすぐに手当てだな」
「堂島さん、ありがとうございました。お怪我はないですか?」
「ああ、菊乃さんが時間を稼いでいてくれて助かったよ。俺は警察官たちとぐるりと外側から回り込んでいたから」

ふたりは私が連れていかれてすぐに捜索してくれていたのだ。そして、救出の機会を探っていたのだ。

「菊乃さんを誘拐しようとした連中は、連行して事情聴取する。おそらく、ヴァローリとマフィアの連絡役だろう。加賀谷、パーティーの中止の手配だ」
「いえ、幸い大きな騒ぎにはなっていません。パーティーは予定通り開催します」

博已さんは手の怪我を自分で押さえながら続ける。

「ヴァローリは彼らが捕まった事態をまだ知らないでしょう。パーティーを中止とともに部下の失敗を知れば、行方をくらます恐れもあります。俺の方で日本の上司に連絡を取りますので、イタリア軍警察に動いてもらいましょう」