そのマスコミ関係者にも顔が利けば、報道を誘導するのも可能ではないだろうか。ヴァローリに会ったときの人のよさそうな様子を思い出し、底が知れない気がしてくる。

『捜査は続く。加賀谷には引き続きイタリアでの活動を頼む』
「わかりました」

電話を切り、菊乃の安否を考えた。おそらくは菊乃の見たメモは、捜査のほんのわずかな手伝いにしかならなかっただろう。それでも、流出したメモが秘書逮捕の原因だとヴァローリ側が考えたらどうなる。
和太鼓コンサートは目前。その日までに捜査の手が及ばなければ、ヴァローリ自身は秘書に罪を押し付け平気な顔で出席するはずだ。


その後ヴァローリ側から日本大使館への連絡はなかった。担当者を通じて、コンサートは出席する旨は伝わってきた。
どうやら、無実の弁明はとうにしているので、こちらへの報告は不要と考えているようだった。らしいといえば、非常にらしい対応だ。
議会や世論はバッシングを強めているが、報道は思ったより過熱していない。
状況を鑑みて菊乃には今回のイベント参加の見送りを提案した。しかし、出席しないほうがわざとらしいのではないかと菊乃が言う。

「博已さんのそばを離れないようにしますので」

妻として責任をまっとうしようとしているのだろう。その覚悟に、俺は頷くしかできなかった。

「わかった。俺も気を付ける」