しかし、それから一週間後に事態が大きく動いた。
ヴァローリの秘書が逮捕されたのである。ルース島を根城にするマフィアから、違法な武器を密輸していた疑いだ。
この件は大使館内でも話題に上った。先日、一緒に会食した者も多くいるからだ。そして、俺は日本の上司から今回の逮捕劇に、俺がもたらした情報がわずかばかり貢献していたことを知った。

『加賀谷が見たというヴァローリの秘書風の南イタリア方言の男……。おそらく、マフィアとヴァローリを仲介している犯罪グループのひとりだ。イタリア国防省はそいつらをマークしている。ヴァローリと会っていたという情報は大きい』

日本の真野室長からの電話に、俺は息を飲んだ。

「それで秘書の逮捕に踏み切ったんですか?」
『ヴァローリ本人をいきなり引っ張るのは難しいからな。イタリア国防省はずいぶん前からヴァローリが単なる政治家ではなく、テロを起こしかねない危険人物だとみなしていたようだ』
「テロですか」
『現政権を揺らがせるためのテロだよ。マフィアや犯罪グループとの繋がりも、武器の密輸もおそらくはそのためだ』

俺は情報の扱いについては知る立場にない。しかし真野室長の言い方だとヴァローリの調査情報は、日本政府だけでなくイタリア国防省からも提供を依頼されていたのだろう。
まさか秘書の逮捕に一役買うことになるとは思わなかった。
真野室長の明るい声に、素直に手柄だとは思えなかった。菊乃は巻き込まれているのだ。

「ヴァローリはどうするつもりでしょうか」
『秘書が逮捕されて、本人だってただじゃすまないはずだが、現状は、無関係だと主張しているようだがな。秘書はマフィアと通じて大型の銃火器を買い集めていたが、その目的や金の流れは知らないし自分は関係ない、とさ。マスコミが騒ぎ出すのはこれからだろう』