ただ名前を呼ばれただけ。

 でも、それすら久しぶりのことで、私はたったそれだけのことで喜んでいた。


「千紗は吸血鬼のこと、どう思う」

 レオは言いながら、食卓に戻っていく。

 椅子に座るから、つい、向かいの席に座った。

「どうしてそんなことを聞くの?」

 質問の意図が、見えない。

「千紗が吸血鬼を怖いって思ってんなら、大人しく諦めようと思って」

 唐突に、別れを提案された。


 どうして?

 私が、血を飲ませないから?

 餌にならない人間には、用がない?


「千紗?」
「……わかった。血、あげる」

 私は上の服を脱ぎ、レオの近くに行く。

 私を見上げるレオは、目を見開いている。

「急にどうした。あんなに嫌がってただろ」
「だって……私が血をあげないから、レオ、いなくなるんでしょ?」

 言葉にすれば現実になりそうで、涙が落ちる。

 こんなにも、私の中でレオの存在が大きくなっていたなんて、知らなかった。


 レオはそっと私の頬に触れ、涙を拭う。


 この冷たいけれど暖かい手に甘えてきた、私が悪いのに。

 まだ、私は甘えようとしている。


「千紗、俺のこと好きだろ」

 それは否定も肯定もできなかった。


 私にとって愛情というものは、無縁に近いものだから。