さすがに、私の部屋にまで着いてくるのは、無視できなかった。

 レオは私の言葉を不思議そうに受け取った。

「血を吸わせてくれるんじゃねえの?」

 部屋に直行したのは、間違えた。

「違う。今日はもう、寝たい」

 レオの顔が、不満を語る。

「よし、わかった。血は明日にしてやる。今日飲んでも、美味くねえだろうし」

 飲むのは確定なのか。

 そんな反論をする前に、レオは私の頭に手を置いた。

 私の身体は一瞬で固くなる。

「おやすみ、姫」

 レオの優しい声と微笑みに、私はなぜか安心し、静かに眠りについた。


 そして翌日から、しつこいほどに血を飲ませろと言われるようになるわけだけど。


 まだ、一度もレオの要求に応えたことはない。

 匂いが気に入られたから、レオは私のそばにいるだけ。

 血の味が好みじゃなかったら、私はまた、一人に逆戻り。

 その怖さもあって、私はレオに血を飲ませることができていなかった。


「よし、姫……は嫌って言ったな。名前は?」

 皿洗いを終え、レオは聞いてきた。


 名前。

 教えて、いいものなのか。

 迷って、答えるまで時間がかかる。

「……千紗」

 私の名前を知って、レオは満足そうに見える。

「千紗」