「ったく、好みの匂いがしたと思えば、襲われてんじゃねえか」

 面倒そうな声を出したのは、傍に片足で立つ男。

 どうやら、この人が吸血鬼を蹴飛ばしたらしい。

「大丈夫か?」

 その人と目が合って、ヒトではないことがわかった。


 ヒトとは思えない美しさ。

 引き込まれそうな紅い瞳。

 月の灯りに照らされる銀髪。


 また、吸血鬼だ。


 でも不思議と、さっきの吸血鬼ほどの恐怖はなかった。


「獲物を横取りするなんて、感心しませんね」


 新たに現れた吸血鬼に見惚れていたら、さっきの吸血鬼が復活し、言った。


 ああ、やっぱり不気味だ。


「はあ? 適当に人間の血を飲み荒らすほうがタチわりいだろ」

 美しい見た目には不釣り合いな口の悪さだ。

「ああ、なるほど。貴方、今どき珍しい、姫を探しているという吸血鬼、レオですね? でも貴方だって生きるために」
「ごちゃごちゃうるせえな。てか、てめぇごときが呼び捨てしてんじゃねえ」

 レオと呼ばれた吸血鬼は相手の言葉を遮り、不機嫌なまま、相手の頭をアスファルトに叩きつけた。

 振り向いたレオは頬に血をつけ、にやりと笑う。


 この吸血鬼なら平気だと思ったのは、間違いだったかもしれない……


「なあ、吸血鬼に愛されてみないか?」


 距離を取らないと。


 本能でそう思ったのに、腰が抜けたらしい。

 レオは笑う。

「可愛いなあ、姫は」