吸血鬼はかなり飛ばされ、向かいの壁にぶつかった。

 痛そうな音に、思わず目を瞑る。

「ねえレオ、その雌のことを気に入ってるなんて、シンの悪い冗談でしょう? レオはずっと、一人の人間の女を想ってたじゃない」

 耳を疑った。

 レオが私に背を向けているから、レオがどんな顔をしているのか、わからない。

 私はきっと、ショックを受けた顔をしているだろう。

「それなのにどうして」
「エミリこそ、なに言ってんだ。俺は一人の人間を想ってたんじゃない。ずっと、姫を探していたんだ」

 エミリは口を動かすが、声は音にならない。


「いたた……レオ君、昔馴染みに随分な仕打ちじゃない?」


 空気を読まない声色がしたと思えば、シンは宙に浮いていて、レオを殴ろうと右拳を振り下ろす。

「お前は姫を攫った。死ぬ理由は十分だろ」

 しかしレオはその拳を受け止め、シンを床に叩きつけた。

 容赦なさすぎて、シンに少し同情してしまう。

「それでこそ、レオ君だ」

 起き上がったシンは、笑っている。


 それから喧嘩が勃発したわけだけど、見ていて痛々しくて、私はついに目を逸らしてしまった。

「あの二人、この倉庫を壊す気かしら」

 すると、エミリが私のそばにしゃがみ、手首を縛る縄を解き始めた。

「どうして……」