目が覚めたとき、身体の自由がないことに気付いた。

 ここは廃倉庫のようだけど、まったく知らない場所だ。

「お目覚め? 泥棒猫」

 気高い声が聞こえ、視界に入ったのは、美しくなびく長い黒髪。

 翡翠の瞳は、私を睨みつけている。

「まったく、レオはこんな雌のどこを気に入ったのかしら」

 私に向けられる憎悪から、この女の吸血鬼がどれだけレオを想っているのかが伝わってくる。

「エミリちゃんもその子の血を飲んだらわかるんじゃない?」

 後ろに控える胡散臭い笑顔を貼り付けた、侵入者が言う。


 この状況はよくない。


 エミリと呼ばれた子に睨まれているのも、レオ以外の吸血鬼に血を飲まれそうなのも、なにもかも。

 それなのに、私は逃げ出せない。


「私が? 冗談はやめて。そもそも、人間の女なんか興味ないの」

 プライドが高くて助かった。

「ふむ。じゃあ、僕が飲んでみようか」

 嘘でしょ、嫌だ。

 必死に逃げようとするけど、壁があるせいで、ただもがくだけ。

 吸血鬼は愉快そうだ。


「お前がそんなに死にたかったとは、知らなかったよ」


 ヒーローのごとく登場したレオは、吸血鬼の首根っこを掴んで、思いっきり背後に投げ飛ばした。