すると、後ろからレオの眠たそうな声が聞こえた。


 そうだ。

 今の私は、一人じゃない。

「おはよう、レオ」

 レオは瞬きを数回する。

 そんなに驚くようなことを言っただろうか。

「千紗、俺の名前を初めて呼んだって気付いてねえな?」

 そういえば、呼んだことなかったかもしれない。

「……嫌なら呼ばない」
「んなわけねえだろ。何度でも呼べ」

 そう言われると、呼びたくなくなるのが不思議だ。

 私はさらに迫られることから逃げるように洗面所に向かおうとしたけど、レオに捕まってしまった。

「ちょっと待て。かなり顔色が悪いな。昨日無理させたか?」

 お母さんはそんなこと言わなかった。

 ひたすらレオの優しさが、傷だらけになっていた心に染みていく。

 どうやら今の私は、涙腺が弱いらしい。

「千紗?」
「大丈夫。ご飯食べて休めば回復するから。顔洗ってくるね」

 レオがこれ以上心配しないよう笑顔を作り、今度こそ洗面所に逃げた。

 鏡を見ると、顔色が悪いだけでなく、泣きそうな顔をしている私がいる。

「……酷い顔」

 顔を洗った程度でどうにかなるものではなさそう。

 でもとりあえずは、洗っておこう。


 そして部屋にスマホを取りに戻った、そのとき。


 窓ガラスが、割られた。