「ごめんごめん、言い過ぎたわ。でもお願いがあるんだ」
「お願い?」
夏菜子は不安な表情を隠せない。
「あまり二人でイチャイチャしてもらいたくないの。
藍くんって、あなた一人だけのものじゃないのよ、三好さんがさっき言ったみたいに、普通に話しかけたいの。
だから、一緒に居るのをやめてくれないと、『セックスしたって噂本当だったわ』って言いふらしてしまうかも」
―――――……え?
ありもしない事実を、しかもそんな恥ずかしいことを言いふらされるなんて、信じられない。
「そんなことやめてほしいんだけど……」
夏菜子の反応を楽しんでいるかのように笑顔で彩が話しかけてくる。
「あたしは藍くんと会話がしたいだけなの。純粋な気持ちよ。だからお願いしに来てるんじゃない」
彩は夏菜子の肩をぽんと叩いて、
「藍くんにも同じことを伝えているから、気を付けてね。
教えてもらったわ、ヴァンパイアって気持ちを抑えることが出来ないんですってね。
一緒に居るのをやめてなんてお願い、聞いてくれるといいわね」
「誰かいるの?」
保険医の先生の声がする。どこからか戻ってきたようだ。
「三好さんが起きたみたいなので、一緒に話をしてました。もう大丈夫みたいなので、あたしは帰りまーす」
そう言って渡邉はさっさと保健室から出て行ってしまった。
まるで善意で話をしていたとでも言わんばかりの言い方だ。
「あら? 顔色はまだ悪そうだけど本当に大丈夫? もう少し休んでから帰る?」
ベッドを覗き込んできた保険医は不思議そうに、そして心配そうに声を掛けてきた。
保険医の先生に相談したところで何も解決しない。そう思った。
藍も戻ってこないし、どこに居るのかもわからない。この日はそのまま帰宅することにした。