でも、今は急いでいるし……それに敷地内をちょっと突っ切るだけだし!

 その純血種に会わなければ大丈夫だろうと判断して、私は少しの躊躇いを放り投げて走った。


 四季咲きのバラがポツリポツリと花開く低木の生垣を通りぬけ、特別寮の建物の裏側へと突き抜ける。
 そのまま裏の生垣の切れ目から敷地外に出られれば問題なかった。

 でも、裏に回った途端言い争う声が聞こえてしまう。

「ホント、なんなんだよあんた!」

 怒りを露わにした怒鳴り声に、思わず特別寮の外壁に身を隠した。

 しまった、こんな時間に寮に誰かいるなんて。

 今は昼休み中。
 とはいえ、もうすぐ午後の授業が始まるという時間のはず。

 だから寮に人がいるなんて思っていなかったのに……失敗したかも。

 早く立ち去ってくれないかなと思いながら盗み見ると、丁度二人の男の姿が見えた。

 茶色の髪をアップバングにしている男は焦げ茶の目を怒りに染めている。
 多分こっちが怒鳴り声の主。

 もう一人は、離れていても分かるほどサラサラな銀髪を前髪長めのウルフカットにしている男だ。
 涼し気な澄んだ紫の瞳は、面倒そうに瞼が半分伏せられている。

 その彼の形の良い唇が開いた。