「なら俺と契約しないか? あんた可愛いし。それに……すげぇいい匂いがする」
「っ⁉」

 平凡というにはほど遠い整った顔を近づけられてドキリとする。
 でも熱に浮かれたような、それでいて獲物を狙う肉食獣の目に思わず息をのんで身を引いた。

 学園の生徒で、この言動。
 彼が契約して連れて来られた人間ではなく、ヴァンパイアだということはすぐに分かった。

 でも、こんな風にいきなり迫られるなんて……。

『お前の香りは、ヴァンパイアを惹きつける』

 数日前に言われた言葉が蘇る。

 私がヴァンパイアにとって特殊な存在だと判明したあの日。
 あの日から私の環境はガラリと変わり始めた。

 多分、それはこれからもっと……。

「緋奈、なにしてる?」

 脳内に蘇ったものと同じ声がかけられる。
 同時に、迫って来たヴァンパイアから離されるように腕を掴まれて引かれた。

「あっ」

 強引に引かれて自分の体を支えられなかった私は、引いた人物の胸にボスンと当たってしまう。
 そのまま軽く腰に腕を巻きつけられ、後ろから抱かれる形になった。

「ちょっ!」

 助けてくれたのは分かるけれど、抱き締める意味はないんじゃないかと抗議の声を上げる。