「あ、ごめんなさい」

 謝りながら見ると、この月虹学園の制服である紺色のブレザー姿の男子がいた。
 少し怒っている様に見えるのは私が無視した形になってしまったからかもしれない。

 悪いと思うけれど、知り合いでもない人に声を掛けられるとは思わなかったんだから仕方がない。

 申し訳ないと思いつつ少しの不満を感じていると、その男子生徒は私の肩を離してため息をついた。

「何回も呼んでるんだから、返事くらいしてくれよ」

 不満を零しつつ、「まあいいや」と本題に入る。


「あんた、人間だろ? しかも誰とも契約してないっぽいし。何でこんなところにいるんだ?」
「あ、それは……」

 単純に不思議そうな顔で聞かれて、説明しようか迷う。
 私がこの学園にいるのは色々特殊な事情があるから。

 言い(よど)んでいると、彼は何か期待するようにソワソワとしだした。

「もしかして、ヴァンパイアと契約したくて潜り込んだとか? たまにいるんだよな、そういう子」
「え? いや、それは――」

 違う、と言おうとした。
 でも、頬を上気させて少し興奮している様子の男子はグッと私に顔を近づけて言葉を続ける。