それなのに、彼はどうしようもない私に向けて、優しく澄んだ声で言うんだ。



「ありがとな、填本」



───え?


なんでお礼を言われたのかわからなくて、思わず顔を上げると、千崎くんが綿よりも柔らかい表情で私を見ていた。



「この1週間、填本めちゃくちゃ頑張ってくれてた。
正直、掃除当番まで誰かと代わって俺の後押ししてくれとは思ってなくて驚いたけど、それくらい全力でやってくれることが嬉しくて嬉しくて……」

「……う、嬉しい?」

「柏木とはあんま進展しなかったけど、でも俺、めっちゃ嬉しかったんだよ。早くお礼言いたくて、この日になるのを楽しみに待ってたんだ」



奥歯を噛み締めてないと、唇を強く噛んでないと、膝を抱く手を強く握っていないと、涙がこぼれそうだった。

それくらい、千崎くんの言葉全部が嬉しかった。