千崎くんがどれだけ誠実で気遣いができる人なのかが、紗良の目にもちゃんと映っていて安心した。

それと同時に、もう一押しすれば上手くいきそうで苦しくなる。


さっき、ノートに書いた文字を思い出す。殴るように強く押しつけた指先の力も一緒に。

私は両手で強くグラスを握ったまま、少しずつ紗良の背中を押すように口にする。



「千崎くんって、優しいよね」

「うん、優しいね。仲良くなって思ったけど、容姿が綺麗なら中身も綺麗なのか、ってちょっと引くわ」

「そ、そうなんだよ!だから悔しいっていうか……」

「ああ、わかるなぁ。かっこいいからっていう理由だけで好きになっちゃう女子見ると、なんで容姿ばかりしか見ないんだろうって思うよね。結構ドジで、なんか天然?疎い?とこもあって面白いのにね」

「そう!そうなの!
千崎くんは顔だけじゃないんだぞって言いたくなる。みんな千崎くんに完璧求めすぎてて、いや実際完璧なんだけど、なんていうか……完璧な人っていうイメージを持たれすぎて、それに応えようとする千崎くんは、もう千崎くんじゃないから、私はそのまんまのありのまんまの千崎くんでいて欲しいの。だから千崎くんが千崎くんのままで笑わせてくれるような人たちが側にいてくれたらなぁ、って思うの」