魔王城の周りの森の中、背の高い雑草を踏み分けて、ジンとベアトリスは闇夜を進んでいく。


「魔狼の声は聞き分けづらいが、ざわついている場所のあたりはつく」


今夜は月のない暗い夜だ。遠くに犬の遠吠えのような甲高い声が響き、ベアトリスはまだ見ぬ魔狼の存在を強く感じる。

ベアトリスが縋るようにジンの手を強く握るとジンの尖った耳ピクついた。


(アイニャがもし魔狼に襲われたら)


恐ろしい想像がベアトリスに憑りついていた。アイニャに何かあったらどうしよう。その想いに突き動かされて、ベアトリスは雑草を踏みしめて夜道を歩いた。


前を歩くジンがふと立ち止まる。


「良い夜だね。魔狼ども。食事中だが失礼するよ」


ジンの目の前には二十頭を越える数の魔狼が群れを成していた。ジンがベアトリスを背に庇う。


ベアトリスは加護があるので傷つけられることはない。それでもやはり、魔狼の群れを前にすると身が竦んだ。


「足元のそれが欲しいんだ。渡して規定区に帰るなら、今だけ命を見逃してもいい」


ジンは冷たい響きの声で魔狼に語り掛ける。ベアトリスには足元のソレ、が見えなかった。