「ゴンさんは飛行機が好きすぎて、奥様に愛想尽かされたんでしょう」
「ああ、『飛行機と私、どっちが大事なの!?』って野暮なこと聞かれてな……」
「もしや〝飛行機〟って答えたんですか?」
「いや、『そういう質問してくる女は嫌だ』って答えた」
「無慈悲」

 女心がわかっていないんだから、と呆れた笑い交じりに脱力した。まあ、それがゴンさんらしいのだけど。

「まあ、俺とお前とじゃ違うからな。降旗は同業者の中から探せばいいじゃねぇか。羽田で研修やってる時、いい感じのヤツいたんだろ? またすぐできるさ」

 歩き出そうとしたものの、心に刺さった棘が今も抜けていない過去の恋が蘇り、一瞬顔が強張った。

 その時、私たちの後方から声が聞こえてくる。

「ゴンさん、莉真にとって今のは禁句ですよ~」

 そう言うと同時に私の肩にぽんと手を置くのは、航空会社の社員であり旅客ハンドリング業務を行っている親友の(あかね)だ。チェックインカウンターから出てきたらしい。

 丸みを帯びた可愛いボブの髪に、清純派女優のような透明感ある顔立ちの彼女は、グランドスタッフの制服と首に巻いたカラフルなスカーフがよく似合っている。

 いつも明るい彼女に会うと、こちらも元気になる。自然に頬が緩んで「おはよ、茜」と挨拶をした。