地元に帰ってきて、早くも一年と三カ月が経った。七月の現在は、情報官四年目の夏に突入したところ。

 事務所の職員も、空港業務を行うスタッフもいい人ばかりで、アットホームな雰囲気にすっかり慣れきっている。羽田での仕事も刺激的だったけれど、私には今の環境が一番合っている気がする。

 管制塔内で働く職員はごく少数で、一番仲がいいのは大先輩である四十歳バツイチの権堂(ごんどう)さん、通称ゴンさん。親戚のオジサンみたいな気さくさで私をサポートしてくれている。

 彼とふたりでシフトを回す時も多々あるが、主要な空港と違って夜勤はないし、一日の便数も少ない地方空港ではこれが普通だ。

 まだ梅雨明けは発表されていないものの青空が覗いている朝、いつものように八時前に到着すると、ターミナルビルに向かって歩いている最中にベテラン情報官のゴンさんと会った。

 挨拶をして営業開始前のビルの中に入ったところで、彼は硬そうな短髪の頭を掻きながらなんの脈絡もなく問いかける。

「なあ降旗、お前の願い事はなんだ?」
「えっ。なんですか、突然」
「ほら、今日は七夕だろ」
「あ」

 そういうことかと、一階の出発ロビーに飾られた笹の葉を指差されて納得した。空港に来たお客様が自由に書いた色とりどりの短冊が揺れるそれの前で、私はなんとなく足を止める。