当時、松本空港を担当していた情報官は、九歳年上の城戸(きど)さんという男性。

 うちの居酒屋によく来ていた人で、私にも気さくに話しかけてくれたので知り合いだったのだが、彼が働く姿を初めて見て衝撃を受けた。

 いつも酔っ払っておちゃらけている姿しか見たことがなかった彼が、真剣な眼差しで、魔法をかけるかのごとく流暢に管制英語をしゃべっている。それがものすごくカッコよかったのだ。

 あの時の感動は忘れられない。いつか私も情報官になって、城戸さんと肩を並べて同じ場所で働きたい、という夢がいつの間にか芽生えていた。

 高校卒業後、必死に勉強してめでたく航空保安大学校に合格し入学。二年間の実習を終え、情報官の資格を取ってからも羽田空港や研修センターでみっちりと実務経験を積んだ。

 そうして情報官三年目の春に、なんと運よく希望が叶って信州まつもと空港に異動してきたのだ。

 ただ、私に夢を与えてくれた城戸さんはすでに松本から異動している。彼がいないとしても、夢見た場所に自分が立てるだけで気持ちが奮い立った。