カウンターの中には小柄で口髭を生やした父と、父より若干背が高くスレンダーな母がいて、笑顔で私たちを迎えてくれる。

「莉真、おかえり。皆もいらっしゃい」
「ちょっと、見たことのないイケメンくんがいるわよ!?」

 目を輝かせてはしゃぎだす母にも、相良さんはあの神のような微笑みで「はじめまして。とても素敵なお店ですね」と、またしても完璧な対応をしていた。

 空港を出る前に一応連絡しておいたらふたりとも大歓迎で、ちゃんとボックス席も確保してある。私と相良さんが並んで座り、それぞれの飲み物と一品料理をいくつか頼んだ。

 乾杯の後、今さらながら自己紹介がてら仕事の話や、今日のスノボの話を聞いたりしたところで、ふと相良さんが私に問いかけてくる。

「この店の名前を聞いた時から思ってたけど、シエラってもしかしてフォネティックコード?」
「そうなんです。父が航空ファンなので」

 私は含み笑いして、他のお客様に料理を出している父に目をやった。

 フォネティックコードというのは、BとD、MとNなど、発音が似ているアルファベットを無線で聞き間違えないようにするため使われる特別な呼び方のこと。航空無線ではBはブラボー、Dはデルタといった風に呼ぶ。

 シエラはSを表す。母の名前の頭文字にしたらしい。