シエラは私の両親が営む、こぢんまりとした居酒屋。いつものメンバーで飲むなら一向に構わないけれど、相良さんもいるならもっといいレストランとかにしたほうがいいのでは?

「なんでウチなんですか」
「近い、安い、うまい。三拍子揃ってるから」

 それはまあ保証しますけど……と言おうとするも、相良さんが興味深げに私を見つめてくる。

「降旗さんの家って料理屋?」

 自然に苗字を呼ばれ、夏に一回会ったきりなのによく私の名前を覚えていたな、と驚きつつ頷く。

「あ、はい。居酒屋をやってまして……」
「そうなのか。行ってみたいな」

 純粋な笑顔でそう言われて断れるわけもなく、ゴンさんが「はい、決定」と言ってさっそく歩き出した。

 空港から徒歩十分の場所にあるシエラには、私は自転車で、男性陣はお酒が飲めない遠野くんの車で向かうことになった。お店からさらに十分ほど歩いたところに私の実家があるので、毎日自転車で通勤している。

 シエラは山小屋やペンションのような外観で、一見居酒屋のようには見えない。中に入ると木のぬくもりを感じる内装になっており、窓際やレジの周りなど至るところに飛行機や戦闘機のフィギュアが飾ってある。父の趣味全開だ。