「会えて嬉しかったよ。いつもありがとう。復路もよろしくお願いします」

 凛々しい笑みと共に軽く頭を下げられ、私も喜びを露わにするのを抑えられない。

「はい……! お気をつけて」

 明るい笑顔で返すと、相良さんは小さく頷いて一歩を踏み出す。関係者が使う階段のほうへ颯爽と歩いていく彼の背中を見送りながら、胸の高鳴りを感じていた。

 パイロットからあんな言葉をかけてもらえたのも初めてに近いので感激する。私の声を聞くと安心できる、だなんて。

 この仕事をやっていてよかったと、心から思う。これからも精一杯パイロットのサポートをしようと改めて誓うと共に、相良さんのことも応援したい。

 ひとつ思い立って、事務所へ向かう前に笹の葉の前に置かれたテーブルへと足を進める。ヒノモト航空の機体と同じエメラルドグリーンの短冊を見つけ、ペンを走らせた。

 茜がこれを見たら、今朝の私みたいに〝自分の願い事書きなよ〟ってツッコむんだろうな。

 松本空港は日本の中では一番標高が高く、〝日本一空に近い空港〟だとも言われている。そのご利益が少しでもあることを願って、笹の上のほうに短冊の紐を結ぶ。

【優しいコーパイさんが機長昇格試験に合格しますように】

 笹の葉にささやかな願いをぶら下げ、清々しい気分でターミナルビルを後にした。