「じゃあ、ひとりずつお話するね。まずパイロットになるには、牛乳を飲むのも大事だけど……」

　親切に質問に答える彼に心が和み、私も口元が緩んだ。

　折り返しの便に乗るまでのインターバルの時間は決して長くなく、自分の休憩もあまり取れないくらいなのにこうして子供たちの相手をしてあげるなんて、優しい人なんだな。

　そうこうしているうちに母親らしき女性が勢いよく走ってきて、「ちょっと目を離した隙に～すみません！」と謝って子供たちを引き離す。

　何度も頭を下げる女性にも嫌な顔ひとつせず、子供たちに手を振っている姿はまさに神対応。感心しきりで見つめていたら、ようやく解放されて再びこちらにやってくる彼と視線がぶつかった。

　反射的に「お疲れ様です」と挨拶すると、彼も私の社員証を見て同じように会釈を返してくれる。

「お疲れ様です。……情報官？」
「あ、はい。おふたりのフライトもしっかり見守らせていただいてます」

　こんな風に、無線じゃなく面と向かってパイロットと話をするのはいつぶりだろう。貴重な機会に胸を弾ませつつ、ふと思いついてビニール袋の中からふたつの缶コーヒーを取り出す。