茜は心底呆れた様子で「罪な男の典型だね」と言い、私も苦笑を漏らして小さく頷いた。誰に対しても同じことをしているんだろうから、気にするだけ損だよね。

 ふと現実に返って腕時計を見下ろし、茜に向かって軽く片手を挙げて「ごめん、また後で」と告げる。ゆっくりはしていられないと足早に歩き出す私に、彼女がピンク色の短冊を手に取って声を投げかける。

「私も短冊に書いておくわ。〝莉真に早く好きな人ができますように〟って」
「いいよ、自分の願い事書きなよ」

 エスカレーターに向かいながら彼女のほうを振り返り、笑ってそう返した。茜は誠実な彼氏もいてプライベートも順調だし特に願うことはないか、なんて思いながら。

 でも茜の言う通り、過去の恋を完全に吹っ切るためには新しい恋をするしかないだろう。わかってはいるけれど現実は難しいな、とため息をつきたくなりつつ事務所へ向かった。