男性陣を見送ると、茜が急に真面目な顔になって小声で問いかけてくる。

「……ねぇ、今日も来たの? 例の彼から」

 なんのことかはすぐにわかり、私は苦笑を漏らして「うん」と頷いた。

〝例の彼〟というのは、さっきゴンさんがいい感じになったと勘違いしていた、羽田空港にある事務所でお世話になった人。その人こそが、私が憧れていた情報官の城戸さんだ。

 縁あって同じ事務所に配属された時は本当に嬉しかった。担当の管轄が違ったのでそれほど会う機会は多くなかったが、彼に近づけただけで胸がいっぱいだった。

 城戸さんに恋をしていると自覚したのもこの頃。勉強ばかりで恋愛から遠ざかっていた私は、再会をきっかけに想いがどんどん膨れ上がって、ついに告白をした。

 ……彼が既婚者だったとも知らずに。

『俺も好きだよ』と言ってもらえて、本当に夢心地だったのに。後から彼が結婚している事実を知って、私はただ遊ばれていただけなのだと思い知った。

 悔しさや罪悪感で押し潰されそうになり、私は城戸さんになにも告げず逃げるようにこちらに異動してきた。

 しかし彼は、それからも誕生日には必ず【おめでとう】とメッセージを送ってくる。今日も、朝起きてスマホを見ると彼から一番に届いていた。