炭焼き小屋を住まいに決めると、近くにある渓流で喉をうるおしました。

「あ~、冷たくておいしいわ」

 生き返ったようなサクラの声がしました。

「あー、うまい」

 ニャン吉も生き返った思いでした。




 そして、サクラとの新たな生活が始まりました。

 その夜、ニャン吉は思いきって求婚しました。

「お、俺と、……結婚してくれるかい?」

 ニャン吉は、少し緊張気味でした。

「……こんなわたくしでよければ」

 サクラは()じらうようにうつむきました。

「俺には勿体ないきみだけど、好きだという気持ちは隠せない。地位も名誉も財産もない俺だけど、……それでもいいかい?」

「ええ。ニャン吉さんの優しさだけで十分ですわ。……わたくしも、好きだという気持ちは隠せません」

(やったー! 相思相愛じゃん)

「お嬢様育ちのきみに苦労をかけるかもしれない。それでもいいかい?」

「ええ。幸せはお金では買えないもの」

(サクラは、いいこと言うな)

「俺は親の顔も知らない。飼われたこともない。根っからの野良だ。きみに贅沢(ぜいたく)をさせてあげられない。それでもいいかい?」

「わたくしは贅沢な生活がイヤでした。貧しくてもいい、温もりのある生活がしたいと思っていました。ニャン吉さんに出会えて、……幸せです」

(サクラ……。泣けてくるぜ)

「あした、結婚式を挙げよう」

「ええ」

 サクラがクリッとした目で見つめました


 翌朝、ニャン吉は小屋の近くに咲いていた赤い花をくわえて戻ると、サクラの耳元に添えました。

「……キレイだ」

「……ありがとう」

 そして、二人だけの結婚式を挙げました。

 互いに寄り添い、頬を寄せ、そして、キスをしました。

 なんの取り柄もない俺と結婚してくれたサクラを、大切にしようと、ニャン吉は心に決めました。




 夕食のためのハンティングに出掛けたニャン吉は、トカゲやバッタをくわえて戻りました。

 おいしそうに食べてくれるサクラを見て、ニャン吉は幸せだと思いました。

 最高級のキャットフードしか食べたことがないであろうサクラが、俺が獲ってきたその辺のものをおいしそうに食べてくれる。

 ニャン吉は、サクラをいじらしく思いました。


 間もなくして、冬がやって来ました。そして、雪が積もりました。トカゲやバッタはどこにもいません。仕方なく山を下りると、民家のゴミ箱を漁って食べ物をゲットしました。

 厳しい冬でしたがどうにか乗り切りました。サクラと一緒にいれば春の日だまりのように暖かくて、まるで天国でした。

 そして、待望の春が訪れました。田畑にはレンゲソウや菜の花が咲き乱れています。トカゲやバッタも姿を現しました。これで、食べる物に困ることはありません。

 それから2ヶ月ほどしたときでした。サクラが出産したのです。男の子と女の子の双子でした。

「ニャーニャー」

 鳴く子供に母乳を与えるサクラは、まさに肝っ玉母さんです。

 “母は強し”という言葉がぴったりでした。

 女の子はクラシックタビー柄で、男の子は白黒のパンダ柄です。

 自分にそっくりな子供を見て、ニャン吉は男泣きしました。

 うれしかったのです。幸せだったのです。




 家族ができたことが……