♪今はもう秋~誰もいない海~
浜辺で夕日を眺めながら歌を口ずさむニャン吉は、ちょっぴりおセンチになっていました。
あ~あ~、なんだか寂しいな……。湘南までやって来たのに、つまようじくわえてたせいで、ヒーロー猫のそっくりさんにされた上に、恋人もゲットできなかった。
そろそろ、慣れ親しんだ田園風景ののどかな村に帰って、おばちゃんたちの立ち話でも聞くか……。
ニャン吉は夜明けと共に目を覚ますと、ピューマのようにしなやかに走り、国道134号沿いを戻りました。
ねぐらにしようと、ニャン吉が神社の床下に入ると、先客が寝ていました。
その後ろ姿は、ピンクの首輪をしたアメリカンショートヘアでした。
(なんでこんな日本のド田舎に、アメリカのしゃれた猫がいるんだ?)
「……あの」
ニャン吉の声にアメリカンショートヘアが振り返りました。
顔を見た途端、ニャン吉は目を丸くしました。
(わぁ~、目がクリッとしてかわいいな~♪)
ニャン吉は一目惚れをしました。
「あら、ごめんなさい。あなたのお住まいでしたの?」
(日本語ペラペラじゃん)
「いや、家賃は払ってないんで、そうは言い切れないんですが、雨露をしのげるんでねぐらにしてました」
「わたくしも同居させていただけませんか?」
「えっ? こ、こんな所でよければ、ずーっといてください」
「わたくし、サクラと申します」
(めちゃくちゃ日本風の名前じゃん)
「わたくしはニャン吉と申します。自分でつけた名前ですが」
「ニャン吉さん、よろしくお願いします」
「あ、こちらこそ。……でも、どうしてこんな所に?」
「……話せば長くなるのですが、ペットとして飼われていたわたくしは、大人になると、好きでもない血統書付きと結婚させられ、子供をもうけました。生まれてきた子供には罪がないので、愛情をそそいで育てました。ところが、ブリーダーによって、子供と引き離されてしまったのです。あまりの悲しみに生きる望みを無くしたわたくしは、死ぬつもりで飼い主の家から逃げ出しました。死に場所を探しているうちに、気づいたらここに……」
そう言って、サクラは目頭を押さえました。
「……そんなつらいことがあったんですか」
サクラの身の上に同情したニャン吉も、目頭を押さえました。
「でも、ニャン吉さんにお会いできて、少し気が楽になりました。……優しそうだから」
「他に取り柄がないもんで」
「そんなこと。わたくしのクラシックタビー柄と違って、ニャン吉さんの白黒のパンダ柄はとてもステキですわ」
(いつも白黒のずんぐりむっくりの雑種って言われてる俺らのことを、ステキだとよ。……もしかして、恋が生まれるか?)