だって、わたしを見つめるときのエレン様の表情って、他のときとは違うんだよ。
 訓練のときの真剣な表情とか、同僚と話しているときの顔とか、一人でくつろいでいるとき、夜会での凛としたお姿も含めて、いろんなエレン様を覗き見てきたけど、そのどれとも違う。

 優しくて、温かくて、見ていて涙がこぼれそうになるぐらい。

 エレン様の表情の裏に隠れているのは、これまでわたしがエレン様に抱いていたそれと似ているようで違っていて。
 けれど、その感情の正体を、わたしは既に知っている気がする。

 だって、わたしの想いがこれまでとは別のものに――――エレン様と同じものに変化しつつあるのを感じているから。


(やめやめ! せっかく息抜きに来たんだもの。もっと別のことを考えないと)


 これでは普段とちっとも変わらない。わたしのために時間を調整してくれたヨハナにも申し訳ないことだ。
 接客をし、手を動かし、雑念を必死で振り払う。いい感じに心が軽くなってきたタイミングで、来店を告げるベルが鳴った。