「リユくん、私を食べて」



朦朧とする意識の中で、女の声が聞こえた。

匂いで恐らく極月イリアなのだろうと思った。

薄っすらと目を開け、迫ってくる極月の口を手で塞いだ。
俺が目覚めたことに驚いたのか、極月は藤色の瞳を見開く。


「……触るな」

「っ、どうして……!?」

「離れろ」


明らかに不快感を露わにした低い声に慄いたのか、極月は俺から後ずさる。


「リユくん、血を吸わないと死ぬかもしれないのよ!?」

「あんたの血はいらない」

「どうして!?」

「俺は小宵しかいらない」

「……っ!!」

「早く小宵を元に戻せ」

「……んで、なんであんな地味な人間なんかに……っ!ただ血が美味しいだけでしょう!?」

「黙れ」


この女の声は非常に耳障りだ。
余計に具合が悪くなる。


「――小宵を元に戻せ。」

「……っ、私は知らないわ……!」

「待て……、クソッ」


こんな体じゃなきゃ、追いかけられるのに……。
体中が怠くて仕方ない。

それでもあんな女の血なんていらない。

俺が欲しいのは小宵だけ。
でもそれは、血が美味しいからじゃない。

それだけじゃないんだ――。