「ほー。お前はお父さんのことをそんなふうに思っていたのか」

「は? なんでいつ来たの? まさか追いかけてきたの?」

「母さんとモーニングに来ただけだ」

 父はそれだけ言うと、目を一度閉じ、それからため息をついて目を開けてこちらを睨みつける。

「そんな甘い考えだから結婚を反対しているんだ!」

「はあ?! さっきと言ってること違うじゃん!」

「問題はお前にもあると言っているんだ」

 父はそこで言葉を切り、それから続ける。

「どうしても結婚をしたいというなら、勝手にしなさい」

「勝手に? まさか、縁を切るってこと?」

 私の言葉に、父は何も言わなかった。

 否定をしない、ということはそういうことだろう。
 どうしてそこまで反対するの、とか、娘を不幸にしたいの、とか、虎太郎が気に食わないの、とか。
 言いたいことは山ほどあったけど、父の冷たい表情を見ていたら、全部、無駄になるような気がした。
 そう思うと、なんだか怒りの感情がふつふつと湧いてくる。

 私は拳をぐっと握り、立ち上がって叫んだ。

「上等じゃないの! 駆け落ちしてやるんだから!」

 私が店を出ると、虎太郎が慌てて追いかけてきた。
   

 駅のホームで私はベンチに腰かけてぐったりとしていた。

「大丈夫?」

 虎太郎が心配そうに私の顔を覗き込んだ。
 冷たい風が、怒りで火照った体に今は心地良いくらい。

「大丈夫。なんかごめん。駆け落ちとか、ドラマかって話よね」

 私が笑うと、虎太郎も笑う。

「俺、さっきの麗華の言葉、うれしかったよ。そこまで愛されてるんだなーって」

「虎太郎も私に愛されてるのかなって不安に思うの?」

「そりゃあそうだよ」

 虎太郎は「なに言ってるんだよ」と鼻の頭をかく。
 私は虎太郎の右手に自分の左手を置く。
 ほわっと温かい。

「どこ行くつもり?」

「とりあえず県外!」

 私はきっぱりと言い放った。

 ふと、視界の隅に、男性が見えた。

 なんとなく気にかかったけど、「まあ、いいや」と私は呟き、そのまま虎太郎と共に電車に乗る。