どうしようかと悩んでいたら、母に『とりあえずお父さん、今興奮してるから落ち着くまで出かけてきたら? いつもの喫茶店とか』と呑気に言われた。

 確かに、家で待っていてもしかたがない。
 父は今、娘がイケメンな彼氏を連れてきて、結婚をするとか言い出してきっと混乱しているだけだ。
 きっとそうだ。

 私はそう思い直し、虎太郎と話し合い、近所の喫茶店で時間を潰すことにした。


「へー。あそこのお嬢さん、挙式がハワイなの。しゃれてるわねー」

「上の子はテーマパーク貸し切って結婚式したらしいのよお」

 喫茶店では、おばさまがたが噂話に興じている。

 ハワイで挙式、テーマパークを貸し切って結婚式か。
 私は運ばれてきた水を半分ほど飲み干して、それから思う。

 名古屋の人は派手好きだ、と他県の人が言っているのを聞いたことがある。
 それは間違っている。
 なぜなら、愛知県民はみんな派手好きで名古屋に限ったことではないから。

 派手好きというよりは、見栄っぱりなんだと思う。
 私の両親もそうだ。

 そうじゃなかったら、地味な顔の娘に「麗華」なんて名前はつけないだろう。

 祖父のお葬式や法事に、お坊さんを同時に八人も呼んだり(宗教上の理由ではない)運動会のお弁当だけやたらと豪華だったり、壊れてもいないのに車をやたらと買い替えたり、塀だけ立派にしたりしない。

 つまり、すべては見栄なのだ。

 だから私は両親が反面教師となり、高価なものやブランドものにはまるで興味がない。
 地味婚で良いと言ったら、それこそ両親は反対するかと思っていたけど。

「まさか県外の人だから反対ってなんだよそれ」

 私がそう言うと、虎太郎がグラスを口に運びながら頷く。

「嘘でも愛知県民って言うべきだったかな」

「そうだねー。どうせわかりっこないし、嘘ついてそのまま結婚しちゃえばよかったのか」

 私はそこまで言うと、虎太郎に謝る。

「ごめんね。なんか、こんなことになっちゃって……」

「いや、いいよ。なんかちょっとドラマちっくだな、とか呑気なこと考えてる」

 そう言って爽やかな笑みを浮かべる虎太郎。

 こんな時でも前向きだな。
 ああ、やっぱり何がなんでもこの人と結婚したい!
 私は妙にテンションが高くなってこう口にする。

「どーせお父さんが反対するのも一時的なものだよ。頑固ぶってるけど結構コロコロ意見変わる人だし」

 すると、虎太郎が視線を上に向ける。

 私もそちらを見ると、父が立っていた。