「お帰りなさい。佑馬くんお久しぶり」



 自動車の窓を開けて声を掛けてきた莉桜の母親。莉桜とそっくりの美人だが、顔色は娘以上に青白い。以前見たときよりもさらに頬がこけたような気がする。



「どうも、お久しぶりです」


「佑馬くんも一緒に乗っていく?」


「いえ、僕は自転車なので」


「そう」



 無理して愛想笑いを浮かべる莉桜の母親。先ほど莉桜に一瞬感じた「儚く消えてしまいそう」な雰囲気を、この人は常に纏っている。

 世話焼きで気が強くて声が大きい、4人きょうだいを逞しく育て上げたうちの母親と同じ“母親”というジャンルで括ることができるのが不思議だ。



「……じゃあ、またね佑馬」


「ああ」



 莉桜はひらひらと手を振って後部座席に乗り込む。

 それを合図に一瞬動き出しかけた水色の軽自動車だったが、再び止まって、莉桜の母親が開けっ放しだった窓からもう一度僕を見た。