意外な気持ちがした。

 ゲームの期限は、莉桜の手術が行われるあたりに設定した。その手術が失敗して死ぬ気でいる彼女が、その先を望むなんて。



「わかった。ちなみに、莉桜は僕に何をお願いするつもりなんだ?」


「まだ決めてないけどさ。……あ、『私の死体を桜の木の下に埋めて欲しい』とかどうかな」


「梶井基次郎か」



 僕は大きくため息をつく。なるほど、死んだ後のことについて望むパターンも当然あるわけだ。



「梶井基次郎って確か『檸檬』を書いた作家だよね? なんで?」


「桜の下に死体を埋めて欲しいって言うから」


「えっと? 桜の木の下に死体を埋めたら、桜の花が綺麗に咲くんじゃないの?」


「……そういう都市伝説的な話の元ネタが多分、梶井基次郎の『桜の樹の下には』って小説だよ。桜が美しいことが不安で憂鬱な男が、桜の木の下には死体が埋まっていると考えることでその不安から解放された、と長々と語る短編」