おともだち

 自分の中にまだこんな衝動があると思わなかった。

 頭ではわかってる。優先順位はこうじゃなくて、加賀美とどうなったんだって。なんでこんなに遅くなったんだって。俺、終電無いし、明日は休みだけど、もう時間だって遅すぎる。
 でも抱きしめたくてキスをしたくて、それだけでうまく体も動かせず、足がもつれそうなまま、それを相手にぶつけるんなんてどうかしてる。学生じゃないんだから、熱情だけで動くのはどうかしてる。

 俺の胸に多江が飛び込んできた時、わずかに残った冷静な気持ちが吹き飛んだ。理性ってやつが。

 今まで部屋で二人になろうと、酔った多江から吐かれる息が俺の理性にかかろうと我慢できたのに。本能じゃなくて、愛おしいのに、気持ちが通じて嬉しいのに壊したいような、ぐちゃぐちゃかき抱きたいような衝動に、自分が一番驚く。

 小さな唇を押し開けて、舌で探って全部、全部俺のものにしたい。熱い吐息も、時折漏れる声も――。

 身じろぎする多江に、いくらか冷静さを取り戻す。真っ白だった頭の中から白いもやのようなものが少しづつ晴れていく。同時に、羞恥心がやってくる。何を――やってるんだ、と。

 「同じ気持ち、でいいんだよな」

 多江の気持ちを確認する。

「うん」
 多江は恥ずかしそうに、でも力強く頷いてくれた。――俺のことが好き――ってこと。
「そっか、わかってるなら……」

 ふっと、思い出される、当初の温度差を思い出す。だめだ、これ。絶対に、ダメだわ。『同じ気持ち』なんて曖昧に濁しちゃダメだ。相手は多江なんだから。

「どう、わかってんの」
 念のため確認する。ちゃんと好きだって言うし言わせるけど、まずは座る前に軽く確認を……。

「あ、うん。()()はちゃんと()()()()()した時にひと箱買ってるよ。だから、大丈夫」

 真っ赤になって多江がそう言った。

 ――いやいや、いやいやいや。あぶねー。そうじゃ、ねえって!