「そんなことないです!」


永瀬くんの大きな目が、私をじっと見つめる。


「桜庭さんには、絵を描く才能があります!」


絵を描く才能がある……ね。

永瀬くんはただ私を励ますために言ってくれたのかもしれない。

でも、今の私には、その言葉が重荷に感じる。


「そうかな? 私はただ絵を描くのが好きなだけで、永瀬くんが思ってるような才能なんて持ってないよ」


私が本音を言うと、永瀬くんの表情が急に悲しそうに変わった。


しまった……っ。
そんな顔をさせるつもりはなかったのに……。

どうして私は永瀬くんに「ありがとう」って、素直に言えなかったんだろう。

余裕がないな、私……。


「ごめんなさい……」


永瀬くんの気持ちに応えられなくて、謝罪する。

これ以上、永瀬くんを困らせてはいけない。


「じゃあね。サッカー、がんばって」


永瀬くんにエールを送って、私は美術室がある旧校舎へと向かった。