「だから、この絵をボツにしようと思って、美術室まで黒色の絵の具を取りに行ったんだ」


その証拠に、私はスカートのポケットからセピアと書かれている絵の具を永瀬くんに見せた。


「でも、永瀬くんたちのおかげで、それをする手間が省けたから助かったよ」


永瀬くんは納得いかない様子で眉をひそめていた。

その視線が絵と私を行き来している。


「どうしてそこまでする必要があるんですか? そんなことをしなくても、桜庭さんはちゃんと桜並木を描けてるのに」


スランプ中なのに、私の絵をそんなふうに評価してくれるなんて。


「ありがとう。でも、私には有名な画家やプロのような才能なんてないから……」


私にとって、絵はまさに言葉そのもの。

基本的な絵の表現技法なんてまったくわからないまま、今までずっと独学でやってきた。

だから、特別スゴいことなんて何もない。