「キミは……」


誰かと思ったら、さっき桜並木の道にいたサッカー少年のひとりだった。


日差しを受けて、かすかに輝く黒い髪。
健康的な肌に、鼻筋が通っていて顔が整っている。 
彼の身長は、私よりも頭ひとつ分ほど高そうだ。
人懐っこくて親しみやすそうな雰囲気がある。

女の子に好かれそうだな……。


「すみません、急に声をかけて……俺、1年の永瀬(ながせ)陽翔(はると)と言います」


息を整えながら、自己紹介をする永瀬くん。

その(ひたい)には、じんわりと汗がにじんでいる。


……永瀬陽翔。

どこかで聞いたことがあるような名前だけど、気のせいだろうか。


「私は3年の桜庭(さくらば)なぎです」


とりあえず、私も礼儀にならって自分の名前を名乗る。

彼がなぜ追いかけてきたのか、まだ理解できていない。

彼はわざわざ私に名前を言うために、走って追いかけてくれたのだろうか。
なんて律儀なんだろう。


「俺、どうしても桜庭さんに聞きたいことがあって」


私に聞きたいこと?


「なに?」


すると、永瀬くんは私が両手で抱えているキャンバスを指さした。