次なる視界/その9
剣崎



麻衣はやり遂げた…

まあ、骨折させられたのが手の指一本ってことで、正直ほっとしたな

電話の様子じゃあ心配はなさそうだし…

ふふ、今夜は寝る前に粉を嗅ぐだろうが…

今、俺は組事務所から車で本家に向かっている

8時過ぎには到着するだろうから、今夜のうちに会長には報告だ

...


本家へ着くと急に雨が降ってきた

湿度の極端な変化は神経には敏感に作用するからな…

麻衣の指、眠れないほどの痛みでなければいいが…

いや、今頃ラリってるかな(笑)

...


会長はすでに屋敷の奥で横になっていた

このところ体調が今ひとつすぐれない

まあ、話くらいはできるだろうが…

「剣崎…」

「会長、お休みのところすいません。麻衣の今日の報告を持ってきたんですが…」

「聞こう…」

「はい…」

俺は仰向けで寝ている会長の2M手前で正座し、約10分かけ、ケジメをつけた麻衣の一部始終を伝えた

会長は目をつぶって、黙って聞いていた

「…一応、私の耳でも大黒先生に確認しましたが、全治10日間程度で、後遺症等の心配はないそうです。念のため、明日、他の病院でも診察を受けるよう、麻衣には言ってあります」

「そうか…」

ここで会長は両目を開けた…

蛍光灯に反射したその眼光は鋭く、いつものケモノの眼だった


...


10秒ほどの間をおいて、会長は声を発した

「…押し入れの中の金庫から10枚持ってけ。包んで麻衣に渡せ。無理せず、しっかり養生しろとな」

「はい。お心使い、ありがたく…。麻衣にはしっかり伝えます…」

「剣崎よう…、次は二人目だ。近々、ここへよこせや。俺が直に話したいこともあるしな」

「かしこまりました…」

「部屋は決まったか?」

「いえ、今2、3当たってますが…」

「決まったら、一度能瀬を連れて行け。ああ、その時は麻衣も一緒にだ」

「わかりました…」

相馬会長は普通の女子高校生、ケイコに極めて細かい配慮を心がけているようだ

同時に麻衣へのバランスも…

一方で、この二人が今後、どのような化学反応を起こてくれるか、楽しみにしている気持ちもあるのだろう

最もこの俺だって、あのケイコって子が今敷かれたレールを一体どう歩むのか、興味を持っているしな