絶叫、そして契り/その10
麻衣


「…わかった。津波とドッグスも南玉として復帰可となれば、私はいい。なら、お前の覚悟の程を試させてもらう」

「…はい」

これで取引完了だ

あとは私がけじめをつけるのみとなる…

...


「おい、準備しろ」

後見の先輩がそう指示を出すと、みんな一斉に何やら準備にかかった

荒子さんは松葉つえを置き、両脇の二人に肩を借りて、私の正面まで歩み寄ってきた

二人のその間、わずか1Mちょっとだ

そして狂犬が口を開いた

「…この際、私の正直な気持ちを言っとくぞ、本郷」

「はい…」

「お前の手並み、度胸、全体を見通す感性と眼力、すべて称賛に値するよ。それは認めてる。…続きは互いに”全快”したら聞いてもらう」

この人、おけい並みにフェだよ

私は益々、あなたを眩しい存在として生きていくでしょう


...


「…では本郷、私は左足のひざ下だったが、”どこ”行くか…」

「お好きな骨、ご随意にどうぞ…」

ここまで来れば、もうどうにでもなれだし‥

「よく言った。じゃあ、左手をだしな」

狂犬さんが指定した骨は左手だった

正直、意外だったよ

私は右手で左腕を上から下まで2往復撫でてから、手のひらを上にして、総長に差し出した

そして大きく深呼吸してね…

それでも心臓はバクバクで、飛び出しそうだ

恐いや、やっぱり…


...


「…では、今回は左手小指をもらう。いいな?」

「ええ…。でも、指でいいんですか?私は足の指ではなくて足の骨ですよ。ならば、腕なら指じゃなくて肘とか…」

「お前に奪われたのは一本の骨だ。痛みは折れ方や個人差で一様ではないだろうし、指の骨でも一本は一本だろ」

「総長…」

この状況で私、感動してるわ

なんてでっかい器量の持ち主なんだよ、この人は

この際、その温情には甘えさせてもらおう

ふう‥、この勢いで一気に終わりにしちゃえ…

「さあ、行っちゃってください!」

私は歯を食いしばって、狂犬の目にじっと視線を合わせた

「よし…。では、行くぜ!…うぉーー!!」

ボキッ…!!

ぎゃああーー!!


...


私の中で時間が消えた

激痛は一瞬という永遠の時間のもと、大波小波で全身を駈け廻っていた

ガラガラガラ…

視線の向こうは西陽が戻ったか…

だが、眩しさを実感する間も痛みに支配されている

痛い、痛いよ…!

私の周りで何人も慌ただしく何やら作業してるや

気が付くと、左の小指には板材が当てられ、その上を包帯がぐるぐる巻かれていく…

「…五條先輩!外の車には伝えました。乗っかればすぐ出られますよ!」

「よし…、さあ、運び出せ!急ぐんだ!」

「いいかー、校舎側から見えないように、人を配置しとけよ!」

私は大きな体の男の人におぶられ、搬出されるようだ

なんとか終わった…

これでおうちに帰れる…